強引なカレの甘い束縛
「七瀬は音羽グループの次期総帥が溺愛している妻の大切な妹なんだ。今はまだ世間に七瀬の存在はそれほど知られていないにしても、あのマンションに住まわせて安全を確保する程度には警護が必要なんだ。結婚式に音羽家の面々が顔を出せば、七瀬の存在は一気に公になる。結婚式の場での安全確保と七瀬の門出を祝える環境。これが必要なんだ」
さらりとそう言って、陽太は「わかった?」とでもいうように首をかしげた。
音羽家の総帥だの私の警護だの、予想外の言葉ばかりが耳に入って混乱している。
忍さんに警護がついているのは知っているけれど、まさか私もそれなりの警護が必要だとは思わなかった。
それに、今住んでいるあのマンションだって、私の安全を守るためなんて。
「そんなこと、聞いてない……」
ほんの少し荒い口調でそう言えば、陽太がいっそう楽し気な声をあげた。
「そりゃ、自分の身に少なからずの危険があるなんて知って、いい気分になるヤツはいないだろうし。穂香さんに言えば彼女の七瀬への過度な干渉がさらにひどくなると思った忍さんは穂香さんにもそのことは言ってない」
「え、そうなの? だけど、どうして陽太がそんなこと知ってるの?」
おかしい。
やけに音羽家事情に精通している陽太。
それっていったいどういうことだ?
訝しがる私に、陽太が何か答えようと口を開いたとき。
「店内にお進みください」
私たちが並ぶ場所からかなり前にあるお店の入口で、店員さんらしき女性が大声をあげて列を前に進め始めた。
十人ほどが店内に消えていった。
私たちも、次の次くらいでアイスクリームにありつけそうだ。
公香を助けたあとの興奮からようやくさめた途端、陽太から思いがけないことを聞かされて、どっと疲れを感じた。
「とりあえず、チョコアイスを食べて落ち着きたいよな」
陽太の言葉に、私も大きく頷いた。