強引なカレの甘い束縛
「どうしたの?」
じっと見つめる俺の視線が照れくさいのか、七瀬はすっと視線を落とした。
「ん。このかわいい七瀬を三百人に見せびらかせるのかと思うとわくわくする」
「わくわくなんて、するわけないよ」
「いや、ようやく、ようやく俺の嫁さんにできたんだ、披露宴の間中、『きれいだろ、俺のだぞ』って言ってまわりたいくらいだ」
それどころか、お祝いのスピーチなんて全部やめにして『七瀬のどこに惚れているか』というテーマで俺がマイクを手に話したいほどだ。
三百人の聴衆を前に話せば、俺も満足できるかもしれない。
いや、やっぱり無理だ。
俺にとって七瀬はどれだけの言葉を使っても、その魅力を語り尽くせないほどの大きな存在だ。
「音羽家関係の人も多いし、忍さんや穂香さんに恥をかかせるわけにはいかないから言わないけどさ。俺が七瀬にベタぼれだってことは言葉にしなくてもわかるだろうな」
「……一緒だよ。私も。陽太の魅力を簡単に説明できないほど大好きだし、一生離れたくないって思ってる」
へへっと笑い、恥ずかしそうに俺をちらりと見る仕草を見れば、俺は溢れ出る七瀬の愛情を知ることができた。
そのすべてが俺にだけ向けられているのだ。
「七瀬、俺、幸せだ」
七瀬を好きになってからの長い日々を振り返り呟けば、七瀬も「うん」と頷く。
俺、本当に、誰よりも幸せだ。
ふかふかの長椅子に並んで座る俺たちの間にはウェディングドレスの白い波が寄せられているが、その向こうにいる七瀬の肩をぐっと抱き寄せた。
「披露宴、ふたりで楽しもうな」
耳元に囁いた俺に大きく首を縦に振った七瀬。
こうして自分たちの結婚披露宴を待つひととき。
五分でいいから控室には誰も来ないで欲しいとお願いし、控室の扉の向こうでは、ホテルの担当の女性が時間を気にしながら立っているはずだ。
残りあと一分というところか。