強引なカレの甘い束縛



「そろそろお時間ですよ。メイクのお直しなど、担当が入ってもよろしいですか?」

「はい、お願いします」

すると、七瀬の衣装やメイクの担当さんが部屋に入ってきて、七瀬の顔や髪を簡単に直してくれる。

「本当に、このドレスにしてよかったですね。あつらえたようにお似合いですよ」

青山さんが、七瀬を見ながら満足気な声をあげる。

七瀬が着ているドレスは音羽家関係の会社の商品だとはいえ、貸し出されたもの。

穂香さんや忍さんはすべてオーダーメイドで作って買い取ろうと言ってくれたが、それはもったいないと言って、七瀬は断固拒んだ。

保管する場所もないし、「こんなきれいなドレスなら、たくさんの人に着てもらったほうがいい」ということらしい。たしかに。

穂香さんが折れる代わりに、披露宴の費用はすべて音羽家が出すというこれまた驚く交換条件を提案されて、異議を唱えたのは俺。

まるで俺が音羽家に婿入りするようじゃないかと、凄んでみせても、忍さんは、

『穂香と七瀬ちゃんのご両親の名前は覚悟していた以上に大きなものなんだ。音羽家の名前も相まって、穂香のときにも負けないほどマスコミが注目してる。頼むから警備がしやすいホテル、そして音羽家に仕切らせてくれ。そうでなければ大事な義妹を嫁には出せない』

まるで七瀬の父親のようにそう言った。

ここ数年、七瀬たちのご両親が生前描いた作品はどれもが値を上げている。

美術品には詳しくないが、そのことがニュースでたびたび取り上げられていることからもかなりの価値を持っているとわかる。

穂香さんと七瀬が保管している作品のすべてを音羽家の弁護士が管理しているが、いずれは美術館などへの寄贈を予定していると聞く。

だからこそ、音羽家が七瀬の結婚式に神経質になっているのだ。



< 368 / 376 >

この作品をシェア

pagetop