強引なカレの甘い束縛



といっても。

この四年ほど、忍さんに協力してもらった多くのことを思いだせば、結婚式や披露宴くらい、音羽家の指示に従ってもいいかと思っている。

大学時代から付き合っていた恋人と別れ、仕事にやりがいも何も見いだせなかった入社当時。

七瀬が側にいてくれたからこそそのつらさを乗り越えられた。

輝さんの雑炊をふたりで食べたあの夜、俺が七瀬に堕ちた夜。

七瀬を手に入れたいと思い、そして、自分の殻に閉じこもり、変化を求めていない七瀬との結婚のために、俺は動き出した。

ここまで長い時間がかかるとは思わなかったが、穂香さんの異常なまでの七瀬への罪悪感と執着を気に病んでいた忍さんと気持ちはひとつ。

惚れた女をとことん幸せにするというゴールに向かって走り始めたのだ。

七瀬が初めて音羽家の面々に俺を紹介してくれた日、その日の俺は『仲のいい同期』を気取っていたが、忍さんはひと目で俺が七瀬を好きだと見抜いたらしい。

穂香さんを愛しているからこそ、わかった。というのは惚気だろう。

穂香さんが音羽家に嫁いだ時点で、七瀬の安全への配慮が秘密裏に行われ、穂香さんの七瀬への必要以上の気遣いを利用することが決まった。

それが、音羽家が所有しているマンションに七瀬を住まわせること。

七瀬は気づいていないが、七瀬が住む部屋の隣には音羽家の親類が住んでいる。

その親類が警備会社を経営していることもあり、七瀬と適度な距離感を保ちながら近所付き合いを続けつつ、警護にあたっている。

このことは、心配性の穂香さんも知らないことだ。

そして、俺は仕事で順調に成果をあげ続け、大きなプロジェクトに召集されることとなった。

入社して以来、いつかはプロジェクトメンバーに入りたいという願いが叶い、目の奥が熱くなるほどの喜びを感じた。



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