強引なカレの甘い束縛
加えて、同じ顔ぶれが会社の上層部との繋がりを太くしていくことはよくないという理由から、わが社では秘書課で働くのは二、三年で、それ以上の勤務はないというのが慣例となっている。
ということは、俺が携わっているプロジェクトの解散の時期と七瀬の秘書課勤務満了の時期が重なるということだ。
バーベキューに参加したことによって、俺と七瀬が結婚を前提とした付き合いをしていると理解していた大原部長は、そのことも含めて七瀬の秘書課への異動を決めたのだ。
それらはすべて偶然の出来事。
そして、七瀬が秘書課に異動となってからもうすぐ一年が経つ。
俺が七瀬を好きになってから四年もの長い月日を費やしてしまったことを除けば、すべて順調に進んだ七瀬との結婚。
ようやく今日、結婚式の日を迎えたのだ。
当初、忍さんが費用は全額出すと言って譲らなかったが、俺はそれは納得できず拒んでいた。
そんな矢先。
『近い将来陽太が転勤するのは確実だから、今私が住んでいるマンションにこのまま住むほうがいいと思うんだけど』
という七瀬の言葉に忍さんと穂香さんは大喜びし、なんなら俺の異動後の家も、音羽家があっせんすると張り切っていたが。
「だったら披露宴の費用の半分くらい出させて欲しい。そうでなければあの家には住まない。俺が住む、セキュリティーは並レベルのマンションで暮らす。異動後も同じだ」
と強気で迫り、どうにか忍さんを納得させた。愛する七瀬との結婚を、音羽家の世話で進めるなんてできるわけがない。
男のプライドもある。
とはいえ、天下の音羽家が関係する披露宴だ。
その費用はかなりのもので、半分出すという言葉は泣く泣く撤回し、三割を俺が出すということで手を打った。
予定外だったのはこれだけではなく。
『俺のいる地上に降りてこい』
七瀬にそう言って、引っ越しを勧めたのは俺なのに、気づけば俺が空に近い場所へと身を寄せることになった。
穂香さんからの執着ともいえる愛情の象徴である七瀬が住む部屋が、俺と七瀬の新居となったのだ。
とにかく早く七瀬と結婚したい俺は、家を探す時間も惜しく、そして、七瀬がずっと住んでいた部屋以上に広く設備が整った家を用意するのは無理だという現実を考えた。
そして、忍さんと穂香さんが大喜びする提案をしたのだ。