強引なカレの甘い束縛
そう、逃げるつもりだったら、とっくに逃げておかなければならなかったのだ。
きっと、マスコミからの注目を浴びる機会もあるだろうし、七瀬と穂香さん姉妹が耐えなければならない面倒な思いを引き受ける覚悟が必要だ。
俺にその覚悟がなければ、早々に七瀬の側から離れたほうがいい。
そのためのこの五年。
忍さんは、七瀬とともに受け入れることとなる音羽家との縁を、俺がしっかりと受け止めることができるのか、常に気にかけていた。
七瀬と共に人生を歩むことによって感じる窮屈さを超えるほどの愛情を、七瀬に感じるのかどうか。
ばかばかしい。
七瀬を手に入れられるのなら、音羽家との面倒な付き合いも煩わしさもなんでも受け止めてやる。
今日の披露宴だって、音羽家主導で準備が進められ、俺と七瀬はイベントの主役というだけの存在かもしれない。
この場に招待された面々の多くは、音羽家との縁を強固なものにしようという下心で溢れている。
俺達の門出を心から祝うという純粋な気持ちのみで列席しているのは身内くらいか……。
まあ、友人や会社の同僚、上司は純粋だろうけど。
だけど、それでいい。
披露宴がどんなものであっても、俺は七瀬と結婚できればそれで満足だ。
いずれ音羽家の会社に入れと言われたとしても、俺はきっと。
「七瀬がいれば、あとはどうでもいい」
と言って、受け入れるんだろう。
「それでは、会場に戻りましょう。おふたりのお色直しの間、同僚の方がおふたりの写真を会場に映し出して盛り上げていましたよ」
青山さんが、「社内旅行の余興で二人羽織りをしている写真は最高でした」と言いながら肩を震わせている。
そんなこともあったな……。