ひみつの琴子さん【修正 & side story完結】
そんなことをグルグル考えていると、女がつぶやいた。


"あなたが誰で、何のために生きるのか"


先般、直木賞を受賞した作者の本の一節だ。


『それを知るために生きている』


俺に話しかけられたわけでもないのに、思わず答えてしまっていた。


急に話しかけられ驚いたであろう女がこっちを向いた。


正面から見ても、女が誰なのか思い出せない。


『どこかでお会いしませんでしたか?』


ナンパ野郎のようなセリフに、言葉を発してしまってから焦った。

女は俺を知らないようで、俺の目をジッと見つめてきた。

首を傾げる。


初対面なのか…


自分の特技の一つである記憶力がガラガラと崩れていった。

トレーを手に席を立つ女の後ろ姿を見つめながら、


(いや…やはり会ったことある)


記憶力を否定したくない俺は、しつこくそう思った。


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