オフィス・ラブ #another code

「まずは単発で、数誌やってみたらどうだ」

「お試しで終わっちゃわないでしょうか」

「向こうも初めての試みなんだ、少しつきあってやれ。むしろお試し価格として、極限まで値引いてやれよ」



日頃あまり価格勝負に出ないぶん、たまの破格提供はインパクトがあるはずだ。

俺ならそうする、と言うと、恵利が身を乗り出してきた。



「こっちも、結果がどう出るかわからないからいろいろ試したいって態度を、あえてとるんだ」

「なるほど! うまくいけば、クライアントとの仲も深まりますね」



飲みこみのいい彼女に、満足してうなずく。



「今後の挑戦も、しやすくなる」

「提案というより、お誘い」

「そう、一緒に探ってみませんかってスタンスだ。結果の見えやすい懸賞タイアップなんかを混ぜれば、さらに響くだろ」



もはやあいづちすら忘れた様子で、じっとフォークを動かす彼女は、完全に頭の中で企画を練っている顔だ。



「堤は、なんて言ってる」

「手を広げるのは賛成、やりかたは自分で考えなさいって。困ったら聞くよって」



思わず笑った。

意外と厳しい上司をしているらしい。


けど、似た立場だった自分には、わかる。

任せるのは、何から何まで面倒を見てやるよりも難しい。


自分は、気を抜くと部下に過保護になりがちだったので。

堤が、さぞ自然体でそれをこなしているだろうと想像すると、うらやましくなった。



「今日、何時に終わる」



車で来ていたので、そう問うと。

少し考えるそぶりを見せて、彼女は。


新庄さんが終わるまで、います、と笑った。



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