オフィス・ラブ #another code


「お前、次長を『どうでもいい』扱いしたらしいな」



そんなことは、していない。

加倉井の面白がるような言葉を訂正した。

今朝出席した、グループミーティングでの話だった。



『3週間後に、β版公開のプレスリリースを発表予定。原稿は広報と作成中です』

『社内説明より先に、リリースかね』



次長の質問に、はい、と新庄は答えた。

6月からグループに入ったこの次長は、聞いたところによると、典型的なコネ入社、コネ出世ということだった。

自分の仕事さえしてくれれば、出自などどうでもいいので、新庄はあまりそのへんを意識したことはなかったのだけれど。



『他店に1日でも先駆けるのが、最大の目標のひとつであり、最重要課題ですので』



15名ほどが集まった会議室で、発言のため立ちあがって説明をする。

しながら、こんなわかりきったこと、どうしてわざわざ言わなければいけないんだろうと不思議に思った。

そのために、リリースの事実に恥じないくらいには仕様を充実させ、けれど開発途中のβ版という公開形式に踏みきったのだ。

まだ就任から日が浅いとはいえ、そのあたりはもう把握していていいはずだろう。



『いくらなんでも、順番が逆じゃないか。私ですらそのシステムを、さわってもいない』



何を言ってるんだ、と今度は軽いあきれに襲われた。

順番て、なんだ。

それを守ったら、誰か得するのか。

守らなかったら、逮捕でもされるのか?



『そんなことは、どうでもいいのです。社内に展開するには、サポート体制を整える必要があり、今はその時間も惜しい』


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