オフィス・ラブ #another code
いつまで続くんだろう、と日中の熱がまだ残る車内を冷やしながら、シートで煙草をくわえる。
どうやっても自分は、誰かの傘下になど入らないのだから、さっさとあきらめてほしい。
コンコン、と助手席の窓が叩かれ、ロックを解除すると、恵利がすべりこんできた。
その勢いのまま新庄の首に腕を回し、頬に音を立てて口づけてくる。
ずいぶん浮かれているその様子に、思わず笑みがもれ、煙草を口から離した。
「ご機嫌だな」
「女性誌の件、いい小物案件がまとまって見つかって、ぎゅっとディスカウントできそうなんです」
いい提案になりそう、とにこにこし、改めて唇を合わせてくる。
くだらないしがらみを頭に置いたまま彼女に触れたくなかったので、それらは綺麗さっぱり忘れることにした。
先月から、この月極の駐車場を借りて、頻繁に車で通勤するようになった新庄は、もっと早くこうすればよかったと思うほどに、その生活を楽しんでいた。
ひとりの通勤も帰宅も、電車とは比較にならないくらい癒され、恵利がいればなおさら安らぐ。
どんなにくたびれていても、車を動かすのは苦にならず、むしろそこから活力を得た。
「寄っていきます?」
マンションの前で、離れがたさに助手席の身体を抱きしめて口づけたら、いたずらっぽく恵利が言った。
基本、ふたりで過ごすのは週末だけだったが、たまにこうして彼女の家に寄って短い時を過ごすこともあった。
彼女も忙しく、疲れているのだから、早く休ませてやりたいとは思うのだけれど。
どうしようもなくその肌が恋しくなる時があり、そういう日は鋭く察知して、恵利は受け入れてくれる。
時間に追われるように抱きあい、けど始まってしまえば、目の前の彼女をひたすら愛すのみで。
誰かに対してこんなに貪欲になったことが、今まであっただろうかと首をひねるばかりだった。