オフィス・ラブ #another code


「チーフには、お世話になったので」



わざわざマーケのある階までやって来た後輩が、廊下で照れくさそうに白い封筒を差し出す。

なんと。



「おめでとう」

「ありがとうございます」



新庄の中では、まだつい昨日のことのように新人時代を思い出せる、この高木が。

結婚。



「全然知らなかったな、いつの間に」

「けっこう急に決まったんですよ。なんですかね、こういうのって、最後には、タイミングなんでしょうか」



嬉しさを隠しきれない様子に、こちらまで明るい気分になる。

こいつならきっと、全力で相手の女性を幸せにするだろう。

性根が純粋すぎるのか、少し奥手なところもあるけれど、誠意ある仕事ぶりで着実に信頼を得る、いい営業だった。



「ブラザーより先になんて、どうかと思ったんですけどね」

「嘘だろ?」



はい嘘です、と悪びれずに言われ、新庄も声を上げて笑う。



「喜んで、行かせてもらう」

「お待ちしてます」



嬉しそうに笑う元部下に、冷やかしまじりの祝福をこめて、背中を叩いた。


席に戻って、再度、招待状を眺める。

こうして部署を離れた後も、チーフと慕ってくれるのは幸福なことだ。


挙式は、12月。

冬の楽しみができたと思った。

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