オフィス・ラブ #another code
システムの社内説明会も軌道に乗った頃。
新庄、と突然に加倉井が呼んだ。
そのただならぬ響きに何事かと振り向くと、彼がフロア内の会議室を指して、そちらへ向かう。
手帳を手に、新庄も席を立った。
ドアを開けると、グループ長が着席していたのに驚いた。
これは明らかに、何かあったのだ。
「異動の動きがある」
「私のですか」
勧められるままに椅子にかけ、耳にしたことが信じられない思いで訊き返した。
すまない、とグループ長が目線を下げる。
「私がもっと早く気づくべきだった。すでに受け入れ先も動いている」
「受け入れ先、とは」
聞けば、地方の小さな支局の、存在すら知らないような部署だった。
さすがの新庄も、肝が冷える思いがした。
そんなことが、あり得るのか。
「お前をふくめて4名が、同じような人事の対象になってる」
「その中に、賀茂という社員は、いますか」
「よく知ってるな。ええと…中部地区への転勤予定になってる」
手帳への書きつけを見ながら、加倉井が言う。
ではやはり、これは次長からの最後通告なんだろう。
知らず、唇を噛んだ。
どんな仕事だって、つまらないと言い捨てる気はない。
そこに必要があればやる。
けれど。
「職務に貴賤はないなんてきどるなよ。こんな経緯でルートから外れたら、会社から存在を抹消される可能性もあるんだぞ」
「…はい」
考えを見抜いたように加倉井に一喝され、重々しくうなずいた。
そう、この場限りの話ではないのだ。
自分の会社人生を、左右する話かもしれないのだ。