オフィス・ラブ #another code
グループ長がため息をついてから、新庄を見すえて口を開いた。



「君を、一時的に社外に出そうと思う」

「社外、といいますと」



マーケの関連会社だ、という加倉井の説明に、ああ、と納得がいった。

確かに、もっとも自然な行き先だ。



「今回の異動を握りつぶしたところで、抜本的な解決にはならない。とり急ぎグループから出ることで、君は狙いから外れる」

「本当は一年後くらいに、正式に行かせようと思ってたんだ、俺的には」



恐縮です、と言いながら、ふたりの上長の前ではあるが、苦々しく眉が寄るのをおさえられなかった。

関連会社があるのは、大阪だ。



「任期は、通常の出向と同じでしょうか」

「そう、最短1年。まあ長くて3年だな。だが…」



加倉井が言葉を濁す理由は、わかった。

戻ってこられる保証も、ないのだ。



「行ってくれるか」



グループ長の言葉に、思わず一瞬、きつく目を閉じた。


いつかは戻ってこられると、仮定するならば。

キャリアとしては、悪くない。

むしろ願ってもない機会だ。


けど、今は。

この東京にしかない、ものがある。



「行かせていただきます」



しかし他に。

どんな選択肢があっただろう。


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