オフィス・ラブ #another code
「なんだか可愛い感じの子だね、年下?」
せっかくまいたと思ったのに、再び同じテーブルに来た彼女を頭から無視し、新庄は店を出た。
電波がフルに立つ路上でかけ直すが、アナウンスがあるのみで、出ない。
この時間に、いきなり電波の届かない場所になんて行くわけがない。
そして彼女の部屋は、電波に問題はない。
電源を切ったに決まっている。
あのバカ。
心の中で毒づいた。
『大塚さん? 出社してるよ』
「そうか」
とりあえずは、ほっとした。
日を置いて、何度かけ直しても電源が落とされっぱなしなので、いい加減心配になってきたところだった。
なんかあったの、と予想どおり訊いてくる堤を適当に流して電話を切る。
言いたいことがあるのに。
どうして言わせないんだ。
何を考えてる?
心当たりといえば、あの同期の女が、彼女に何か話したらしいことくらいだが。
それで、ここまで自分がシャットアウトされるなんてことがあるだろうか。
近代的だった本社より、どこか懐かしい雰囲気の喫煙所で、煙草をくわえながら記憶を探る。
それでもやはり、恵利の態度の理由には、思いあたらなかった。
ふと、手に持ったままの携帯が震え、堤からの着信を知らせた。
「なんだ」
『急に切るなよ、こっちも用があるんだからさ。例のOBの件、日程決まったよ』
AOR制を突然廃止したり、代理店ごとのシェアを均等にする暴挙に出たりという広告主の話を恵利から聞いた後、すぐに堤に連絡をとり、新しい本部長との、過去の確執について説明した。
それだけが理由とも思えなかったが、尾を引いている可能性は高かった。