オフィス・ラブ #another code
「これ、けっこうかかっちゃうよ」
「やっぱり」
なじみのエンジニアが、あーあとため息を漏らしながら人差し指と親指で輪をつくってみせる。
「場所が悪いよね、ドアパネルって」
「もう少し他が傷つくまで、待とうかな…」
言っていて、憂鬱な響きだと思った。
整備工場を併設しているこのチューニングショップには、学生時代から世話になっている。
今住んでいるところを離れたくないのも、ここが理由のひとつだった。
「もう、どのくらい?」
「じき一年かな」
不定期に車が傷つけられるようになって、ついに、もうそれだけたつ。
なんなんだ。
その前には、家の周囲でしつこく人の気配を感じることが続いた。
どこの誰か知らないが、こんなことに時間を割くことができるなんて、いったいどれだけ暇なんだろうか。
そんなに時間が余っているなら、俺にくれ、と新庄は心中で毒づいた。
「誰かの恨みでも買ったんじゃないの」
新庄より少し年上のエンジニアが、冷やかすように言う。
女関係とか、と続けられて、自分はそんなイメージなんだろうかと首をひねった。
「心当たりは、ないけど」
「あったら最悪だよ」
ボンネットに浅く腰をかけていた新庄は、確かにそうだと苦笑して、吸っていた煙草を吸殻でいっぱいのオイル缶に捨てた。