オフィス・ラブ #another code
鞄を置いて、上着を脱ごうと寝室に向かうと、そちらから携帯の振動のような、こもった音がした。

なんだろうと思いながら、戸口の横のスイッチで室内のライトをつけると。


恵利がいた。


震えている携帯を、ぼけっと握りしめて。

目を丸くして、こちらを見ている。


新庄も一瞬呆然として、言葉が出なかった。

つくづく、意外なところに出没する。


着信に気づいてたんなら、出ろよ、とあきれつつ、こんな暗い中で何やってたんだろうこいつ、と不思議になった。

いや、それよりも、なによりも。


会えたじゃないか。


ラッキーだなあと内心で喜びながら、久しぶりのその頭を抱く。

腕を回すと、その身体は妙に温かくて、さては寝てたなと思いあたった。

明かりの下で見る寝室は、どこもかしこも綺麗だ。

きっと、たびたび立ち寄っては、掃除をしてくれていたに違いない。


愛しさがこみあげて、抱きしめると、肩口で恵利が泣いているのが、なんとなくわかった。


泣くなよ。

泣くくらいなら、電話に出ろ。

そう叱ってやりたかったけれど、とりあえず愛しくて、まずは泣きやませたくて、頭をなでた。


すると恵利は、どうしたことか。

声を漏らして泣きだした。

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