オフィス・ラブ #another code
さすがに慌てた。

彼女がここまで泣くのを、見たことがない。


ひたすら頭をなでて、落ち着かせてやるしかできなかった。

どうしたっていうんだろう。


少しおさまったところで、今から行こうとしていたという偶然を聞かせてやると、残念ながらそれは会話の糸口にもならず、恵利はまた泣いた。


まったく泣きやむ様子のない彼女に、だんだん楽しくなってきて。

いい加減、顔を見たくなった。


嫌がる彼女を無理やりこちらに向けて、ずっと思い描いていた顔を見おろす。

泣きぬれたその顔は、可愛くて。

ああ、そうか、と思った。


こいつも寂しかったんだ。


そう訊いてやると、にらみつけてくる。

それがなおさら可愛く思えて、笑いだしそうな気分そのままに口づける。


だから、言えって言ったろう。

バカめ。

我慢したり、ためこんだりして、何になる、そんなもの。



「大塚」



はい、と従順な答えが返ってくる。


会いたかった。

こんなにも、会いたかった。


呼べば返事が来るこの距離が、ただ嬉しくて、名を呼んでは抱きしめた。

まだまだ泣く気らしい恵利の笑った顔を見るのは、当分無理なようだとあきらめて。

泣きやまないままに、口づけた。

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