オフィス・ラブ #another code
広告代理店が、何を「代理」しているのかという考えには諸説あるが。
広告主の利益追求を代行しているのだという考えが、新庄は好きだった。
要するに、どこまでも一心同体だ。
「綺麗ごとだね」
「同感ですが、本心です」
瀟洒な邸宅に上がり、書斎に案内されて、そこで出会ったこのOBは。
どんなに不利なセールスの場でも、あがったり緊張したりという経験をしたことのない新庄を、畏怖心で凍らせた。
けれどそれも一瞬のことで、気圧されるような威圧感は刺激に変わり、なんとしてでも説得してやろうと戦意を新たにした。
「そもそも、なぜ君が」
「先方にも部内にも、縁故があります。行きすぎた改革のために、双方痛手を負うのを、静観する気はないのです」
「君も結局、わたくし事だね」
「それが問題とは、思いません」
私心で動いて、何が悪い。
動機なんて、問題ではない。
誰もが最高のパフォーマンスを発揮して、フェアに戦い、その上で利益を勝ち取るのが、仕事の醍醐味だろう。
その場を提供したいと思うのは、労働を愛する者なら、誰でも同じなんじゃないか?
新庄を射抜くように見つめていた鷹のような瞳が、ふっと笑んで、サイドテーブルのグラスを差し出した。
「飲めるかね?」