オフィス・ラブ #another code
説得は、成功するだろう。

本部長は、あのOBに諭されて否を言えるような性格ではない。


雷のような勢いで怒りを爆発させ、まだ新米の営業だった新庄を怒鳴りつけた、当時の商品企画の副本部長を思い出す。

なんと新庄は、手帳で横っ面をひっぱたかれすらしたのだった。


その怒りも、もっともだ。

手塩にかけて開発した製品が、売りかたひとつで無残に失敗作と化すのを、目の当たりにしたんだから。


一本気で、自社を愛する人なのだ。

誰にも正義があって、その数だけ真実があるのだ。

ただ時にそれが過剰であったり、ひとりよがりに過ぎたり、他者の領域を脅かしたりするだけなのだ。


それをすりあわせるのが、結局は、組織で働くということなのかもしれないと新庄は思った。



「ごくろうさま」

「お時間をいただき、恐縮です」



玄関に出てきたOBをタクシーの後部座席に誘導し、自分は助手席に乗る。

行き先を指示しながら、なんとなく考えた。


誰か、大事な人のために、できることがある。

その喜びを感じたくて、自分は働くのかもしれない。


上司であれ、同僚であれ、部下であれ、取引先であれ。

かかわるすべての人に、勝利があるように。

そんなふうに動くのが、新庄は好きだった。



ふむ、とひとりで納得した。

意外と自分は。



人間というものが、好きらしい。





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