オフィス・ラブ #another code
そうだ、と思いつく。

一度、訊いてみたいことがあったのだ。



「あのさ」

「はい」



カタログから目も上げずに、声だけで返事が返ってくる。

相当そのモデルが気に入ったらしい。



「俺の、送別会の時さ」



あの喫煙所で。

いったい何を考えて、あんなことをしたんだ?

それがずっと、疑問だった。


あれがなかったら、今の自分たちはなかったわけで。

そう思えば偉大な所業で、ありがたいばかりなんだけれど。


正直に尋ねてみると、恵利は目を見開いて、こちらを凝視してきた。

なんだろう、あまり触れてほしくないところなんだろうか。



「最低…」



そうか、この質問は最低なのか。

覚えておこう、と頭にとめた。


すっかり冷ややかな態度になった恵利が、ほおづえをついてこちらを見る。



「新庄さんは、何を考えてました」

「やっちまった、が8割かな」



また棚上げか、と思いながらも記憶を探って答える。

確か、そんな感じだったはずだ。



「残りの2割は」

「まあ、いろいろだ」

「いろいろじゃ、わかりません」

「自分は答えてもいないくせに、なんだ」



いい加減、言い返してやると、すねたようにじろっとにらんできた。



「やぶれかぶれ、でした」

「やぶれかぶれ?」

「どうにでもなれっていう気持ちが、8割でした」


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