オフィス・ラブ #another code
はあ。

そんなもんなのか。

それが転がって、こんなふうに未来をつくるんだから、人生はわからない。



「残りの2割は」

「さあ、覚えてません」



つんと言ってそっぽを向く。

そういう態度は逆効果だと、そろそろ学んでもいい頃なのに。



「覚えてないのに割合だけ出てくるのは、おかしいだろ」



すっかり面白くなって、嫌味に指摘してやると、恵利の頬が染まった。

いったいどんな2割なんだろう。

これは、聞き出さないことには終われない。


真っ赤になった耳を手で覆ってうつむく恵利の肩に腕を回し、なあ、と嫌らしく催促してみると。

こっちに引く気がないのを悟ったんだろう、彼女が顔を上げて、きっと見すえてきた。



「ただ、したかったんです」



は? とつい間抜けな声が出た。



「単に、新庄チーフとキスしたかったんです。それが2割」



おやすみなさい、と音を立ててカタログを閉じ、それを枕元に置いたまま、壁側を向いて布団をかぶる。

新庄は少しの間、呆然とそれを見つめ。

次第にこみあげてくる笑いをこらえきれなくなり、最後には声を上げて笑った。


どうだ、可愛いだろう、と彼女を誰かに見せてやりたいような気分だった。

布団ごと抱きしめ、のぞいている熱い耳に唇を落とす。


やはり自分は、ダメならダメでいいやと、なんとなくトライしたくなるような、そんな存在なんだろう。

そのことに感謝したくなったのは、初めてだった。

本当に、人生、何がどう転ぶかわからない。


笑いがとまらずにいると、いい加減にしてください、とカタログが飛んできた。



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