オフィス・ラブ #another code

「他店のイベントをさ、見てきてほしくて」

「例の、倉庫街のですか」

「そう、先方の部長さんもいらっしゃるっていうから、行くつもりでいたんだけど、この月末、立てこんじゃって」



代わりに挨拶してきて、と言われ、気楽な課長にあきれつつも快諾する。

どうせ家から近いし、見てみたくもあった。

あの代理店は、数年前からイベントのシェアをじわじわと伸ばし、中小規模の企画の取り扱いはすでに同等まで来ている。

視察ついでに簡単な報告書にでもまとめて残していこう、と考えたところで、そうだと思いつく。



「問題ないようでしたら、大塚を同行させたいのですが」

「いいよ、俺から頼んどく。せっかくだから、ふたりとも出社扱いにしちゃおっか」



何がせっかくなのかわからないうえに、それでは代休の意味がない。

けっこうです、と断って、ふたりで会議室を後にした。


休み中に仕事させるのは気が引けるが、いい勉強の機会だ。

ひとりで視察に行かせることはあっても、なかなか一緒に見てやることはできない。

何か、新しい視点なり、打開のとっかかりなりを見つけさせてやれるかもしれない。


もし状況が許すようなら、食事にでも連れていこう。

せめて少しの間でも、彼女をあの部屋から遠ざけてやりたい。

気晴らしといえるほどのものを提供できるか、わからないけれど。

自分にできるのは、このくらいだ。



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