オフィス・ラブ #another code
「チーフ、エンドCIの再差し替えの件て、ご存知ですか」
「知らない、なんだ」
TV担当の井口が、ノックと同時に入ってきた。
後任の林田と、会議室に詰めて引き継ぎを行っている最中だった。
林田に断って、井口を招きよせる。
「先月、企業コンセプトの変更に伴って全素材差し替えたでしょう、それがクライアント内でもめたらしくて」
「また差し替えるのか」
「うちはいいんです、対応できます。けど他店のぶんが、足並みがそろわないんですよ」
ここでいうCIとは、コーポレートアイデンティティの略で、CFの頭や最後に企業名やスローガンをコールする、あれだ。
アイデンティティというからには、CFによってあれがまちまちなのは、当然ながらいただけない。
特に連続するCFでCIが違うという事態は、可能な限り避けたい。
「2段積みは」
「あるんです、運の悪いことに」
井口が、テーブルにCFのローテーション表を広げてみせる。
確かにある。
今日素材の入れ替え指示をしたとしても、間に合うか間に合わないか、ぎりぎりのラインだ。
「もとはと言えばクライアントの勝手ですし、今回は許容しますか」
「ダメだ。局に頭を下げてでも、粘れ。俺からもケアしておく。その話はどこから来た?」
クライアントのTV担当です、という返答に、思わず眉が寄る。
そんな話を、製品チームが知らないはずはない。
どこかで情報が途切れたのだ。