オフィス・ラブ #another code
手配のため会議室を出る井口を追って、自分もフロアへ戻る。

なかなか進まない引き継ぎに、焦れる。

林田自身も、自分の業務をまとめて後任に引き継がなくてはならない中、とにかく時間が足りなかった。



「春日部さん」



ちょうど席に戻ったらしい、製品チームのチーフである先輩社員に呼びかける。

先に戻った井口の形相から想像がついていたらしく、新庄が口を開く前に、すまん、と謝罪してきた。


これは、長いことふたりで頭を悩ませてきたことだった。

メディアと製品の両チームは、横串を通すポジションの人間がいないため、多忙な時期になると連絡が分断される。

今回、季節モデルの発表が重なり、春日部は海外に飛び、その他のメンバーもほとんど席にいない期間が続いた。

そしてメディアチームは自分を始め、まさにてんやわんやの状態だ。



「早急に、どうにかしたいですね」

「人事に増員要請してはいるんだけど、逆にこのありさまだよ」



春日部が、新庄を親指で指してため息をついた。

場所を移す間も惜しく、ふたりはデスクの前で立ったままだ。

新庄も、息をつくほかなかった。

一刻も早く統括役を置かなくては、惨事になりかねない。



「俺が引き続き、課長となんとかするよ。お前はとにかく、引き継ぎだけしっかりやってくれ」



はい、と答えながら実感した。

自分はもう、ここの人間ではないのだ。



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