オフィス・ラブ #another code
「いいんじゃないでしょうか、名古屋で。いっそ大阪でも」
「そこで折れると、後が面倒だ」
「距離は譲るとして、別のものをもらいましょうよ」
たとえば? と愉快そうに加倉井が訊く。
食えない男だ。
「向こうの、最も優秀なディレクターを、こちらに常駐させるとか」
「人質か」
「人的な連携です」
土俵が泥沼なら、こちらもそれなりの相撲をとるしかあるまい。
その場合のインフラの互換性に関する懸念や、更なる改善案、具体策が口々に場内から上がる。
なんとまあ、ハングリーなメンツだろう。
これまでいた営業部も、各人の優秀さでは引けを取らないが、なんというか、持っている野性が違う。
どうして自分が選ばれたんだろう、と不思議になるほどだ。
実際のところ、早いところ実務にとりかかりたい思いもあったけれど、これはこれで、めったに経験できない有意義な時間だと思った。
ほぼ午後いっぱいを費やした会議の後、喫煙所で一服していると、加倉井がやって来た。
「どうだった」
「くたびれました」