オフィス・ラブ #another code
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「貴志は、言わないね」
「だって、本人の自由だろ」
日曜の夜というのに、大量の酒と食材を持って妹が押しかけてきた。
割合近くに住むこの妹は、差し入れを持ってよくこの横浜の部屋を訪ねてくるのだけれど。
今回は珍しく、ただ愚痴を言いに来ただけのようだった。
再三の呼び出しに応じなかった自分に代わって律儀に実家に帰り、そこで見合いの話を持ち出されたらしい。
散々に煙を吐き出しながら、腹立たしげにワインをあおっている。
「別にお前、相手に困ってるわけじゃないのにな」
「そうよ、多すぎて、決めかねてるってだけなのに」
本気で言っている様子の妹に、笑う。
田舎暮らしの、どこかのん気な両親はさほど気にしていないのだけれど、親戚が少しうるさくなってきたらしい。
まあそれも、気にしてくれている証拠だ。
自分も、気が強すぎる他は特にどこも問題のない妹がこの歳までひとりでいるのを、不思議に思うことはある。
けど社会的地位もあるし、考える頭だって持っている、ひとりの立派な女だ。
したくなったら、するだろう。
「貴志は、まだ、ないの?」
問われて、ダイニングテーブルのドライフルーツに手を伸ばしながらうなずく。
ほおづえをついた妹は、向かいからフルーツの皿をこちらに押して、ふうと煙を吐いた。
「最近、仕事しかしてなそうだから、出会いもないか」
言われて、なぜかぎくりと一瞬手がとまる。