オフィス・ラブ #another code

終電をすぎるかと思ったら、少しばかり早く仕事を終えることができ、車を置いてある駐車場に向かった。

物音が聞こえ、まさかと思い近づくと。

そこにいたのは予想を裏切って、またもや大塚だった。

しゃがみこむ後ろ姿だけで、なぜか遠目にもそうだとわかる。


彼女の前にいる女性には見覚えがあった。

秘書課の社員だ。


何が起こっているのか、わかるようなわからないようなで声をかけあぐねていると、秘書がこちらに気づいた。

続いて大塚が振り返る。


明らかに痛手を負っているらしいその姿に、一瞬、我を忘れた。


どうして、そうなんだ。

なぜそこまで、してくれるんだ。


思わず彼女を乗せた車中は、重い沈黙が降り。

もう修復不能な互いの関係を痛いくらい実感させた。



「無神経です、新庄さんは」



助手席から、抑えた声が言う。


彼女が言うなら、そうなんだろう。

特にそういう言葉で、自分を考えたことはないけれど。

自分に何が足りないのかと考えてみたら、要するに、そういうことなのかもしれない。


考えろ、と大塚は言う。

なかったことにするな、と。


どこまでも、彼女は正しい。

責められるべきは、あんなことをしておいて、恥も知らずに逃げ続けた自分だ。


確かに自分にはきっと、考える義務がある。

でも、何をだろう。


大塚の唇ににじんだ血を、思い出すだけで身体が冷える。

なんだって、こんな自分なんかのために。

彼女の心は素直すぎて、思いもしないところにぶつかり、それが恐ろしい。


これまでの人生で、散々失敗を重ねてきておいて。

性懲りもなくまた軽々しく近づいた、その結果がこれだ。

自分の馬鹿さ加減に、心底愛想がつきた。

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