オフィス・ラブ #another code
「ほんと、おとなしくなったよね」
おかしそうに言うエンジニアに、我に返る。
丹念にボディを触りながら傷をチェックしている彼に、車のことかと納得した。
ホイールとマフラーを替えて、CPUと排気系のチューンをした他はノーマルのこの車は。
学生時代と比べたら確かに、話にならないほどおとなしいだろう。
「いい加減、落ち着いてもいい頃だろ」
「言うほど、中身は変わってないと思うけどね」
あっさりと返されて、つい笑みが漏れる。
そうだろうか。
けどこんな自分も、これから少し、変わってみようかと思っていたりするのだ。
その変化は、たぶん相当にゆっくりで。
きっと彼女を、待たせることになる。
悪いな、と新庄はひとりごちた。
無理にとは言わない。
でも、待っていてくれるとありがたい。
そのうち、きっと。
この思いに名前をつける勇気を。
自分は得るだろう。
冬の、乾いた清潔な風が、錆びたガレージの隙間を鳴らし。
白い息と煙草の煙を、快晴の空に巻きあげた。
ACT.I End.