オフィス・ラブ #another code
やはり、堤は自分を忘れていなかった。
あの男は、自分と大塚の微妙な関係に、即座に気がついたのだ。
堤の秘密めかした悪意に敏感に反応した大塚が、怯えたように腕を握ってくる。
「やっぱり、何かあったんでしょう?」
不安に揺れる目が、胸を刺した。
こんな顔をさせているのは、自分だ。
時間が遅いこともあり、その話は今度だと大塚を納得させる。
彼女の手の震えを感じた時、堤への怒りをはっきりと意識した。
堤の狙いは、彼女ではなく、新庄自身だ。
別に、自分が標的になるのはかまわない。
相手にしなければ、それで終わる。
けれど、今後もこうして、彼女に不愉快に絡むつもりなら。
堤を、許すわけにはいかなかった。
あの時のように。
『今度、飲みにでも 11-6堤』
打ち合わせから戻ったら、席に電話の伝言メモがあった。
ふざけやがって。
11-6という、新庄も愛着のある数字の後ろにこの名前があることが、もはや腹立たしい。
無視してやりたかったけれど、メモの最後に「PCB」とあるのを見て、そうなると折り返さないわけにいかない。
まだ暗記している、製品のチーフ席の内線番号をコールすると大塚が出た。
ということは、堤は不在か。
ふと心配になり、彼女の無事を尋ねると、特に何も、という返答があり、安堵する。
とりあえずは、おとなしくしているらしい。