オフィス・ラブ #another code
堤が戻ったのか、大塚が少し待つようにと言った。

その少しの時間を使って、進めている広告システムの大幅改良と、β版段階でのサービスインを提案する企画書を書き進める。

しかしそれも、思うようにははかどらなかった。


彼女に申し訳が立たない。

完全に、巻きこんだ。



『新庄?』



ふいに、嫌味なほど普通の声が聞こえる。

切り替え音がまったくなかったところを見ると、大塚の席の電話をそのまま受けとったんだろう。

想像するだに不快で、キーボードから指を離し、電話に集中する体勢を整えた。



「飲んでくれるらしいな」

『うん、そう、お礼も兼ねて』



先日急に呼び出された、前の部署でのブレストのことだ。

何がお礼だ、ぬけぬけと。



「お前がいれば、俺なんか必要なかっただろうに。邪魔したんじゃないか」



皮肉をこめてそう言うと、堤が明るく、いや、と否定した。



『お前の目のつけどころは、見事だから、何につけても』



受話器を握る手に、力がこもる。

大塚が、まだそばにいると直感した。

どれだけ萎縮して、堤の声を聞いていることだろう。



「代われ」



とたん、堤が吹き出す。

大塚にだろう、過保護だね、と聞こえよがしに言うのが受話器を通して届く。


好きに言え。

お前の思うようには、させない。



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