オフィス・ラブ #another code
異動してきた時、堤からは特になんのアクションもなかった。

だからもう、忘れたことにしたのだと思っていた。


新庄が企画部を離れる直前の、あの忌まわしい冬の記憶を。





やだよ。

毎年行われる企画部門全体のコンペを、一緒にやらないかと堤を誘ったところ、あっさりと断られた。



「戦いたい相手と組んで、どうすんの」



なるほど。

全員参加のこのコンペは、他部門の誰と組んでもよく、つまり社内に顔が効くほうが有利だ。

まだ転職して半年もたたず、同期も持たない堤にそれはハンディかと、そういうつもりもあって声をかけたのだけれど。

そういえば、こいつは人脈を広げるのが不気味なほどうまく、そのあたりは困っていないんだった。


純粋に、面白そうだから組みたくもあった新庄は少し残念に思い。

けれど挑発されると昂ぶる自分もいて、わかった、と受けて立つことにした。



「気づかい、ありがとね」



新庄のおせっかいを見抜いていたのか、隣の席で仕事に戻りつつ、堤がにやりと笑う。


さっさと明けた梅雨の後、観測史上最高の気温が全国各地で叩き出され、まだ猛暑日という言葉が生まれていない頃。

5ヶ月の準備期間をかけて行われる、一大イベントの始まりだった。

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