オフィス・ラブ #another code
大塚の顔が、曇っている。
「なんだ…どうした」
思わず問うと、堤さんは何がしたいんでしょう、と頼りない声を出した。
ディーラーに車を受けとりに行った時、大塚を迎えに行くことを思い立ち、店舗からメールを入れた。
19時には上がるとのことだったので、久しぶりの車で少しあちこち走って、そのまま来たのだった。
堤の件に関して、特に彼女から連絡もなかったので、問題ないのかとも思っていたのだけれど。
何かあったところで、こいつは連絡をよこさないだろう。
そう思って、一度顔を見ておきたかったのもあり、純粋に会いたかったのもあり。
けど、やはりこうしてダメージを受けているのなら、もう少し早く来てやればよかったと反省した。
気にするな、と果たして自分に言う資格があるのかわからない言葉をかけながら彼女の背中を叩く。
堤の奴をどうしてやろう、と漫然と頭を働かせていた時、ふいに大塚が言った。
「堤さんと合わないのは、新庄さんのブラザーと、何か関係がありますか」
思わず振り返り、ゆるぎない視線とぶつかる。
なぜ、それを。
そんな話、かけらもしたことがなかったはずだ。
持っていた車のキーを握りしめると、革のキーホルダーの金具が小さな音を立てた。
仕方ない。
今度話すと言ったのは、自分だ。
幻滅されるだろう、と思った。
自分のしたことの、汚さに。
それを黙っていたことの、卑怯さに。