オフィス・ラブ #another code
「2-6-2の法則ってやつかなあ」
「やめろよ」
頭の後ろで腕を組み、背もたれによりかかってつぶやく同僚をにらんだ。
この男のこういう点だけは、なじめない。
「怠けてるわけじゃないだろう」
「足手まといって意味では、同罪」
むしろ自覚があるだけ、怠け者のほうがマシかもね。
そう言い捨てる堤に、新庄は苛立った。
食堂の騒々しさに乗じて、声もひそめずに平然と言ってのける堤を、信じられない思いで眺める。
堤の言っているのは、どんな集団でも2割は優秀、6割は普通で、あとの2割はサボるという働きアリの生態を元にした法則だ。
「そういう言いかたは、不愉快だ」
「俺もあの人には、同じ思いだよ」
もはや食べる気も失せ、新庄はトレイに箸を投げ捨てた。
去年一年、新庄のブラザーを務めてくれた、松岡という先輩社員の話だった。
松岡は、新庄たちよりも5年上で、ずっと企画3部で仕事をしてきた地道な努力型の社員だ。
今年度に入ってから休みがちになり、夏休みを経た後には、週に一度は突然休むという状況になっていた。
「休むのは別にいいけど、予告なしでたびたびってのは、迷惑千万」
社会人失格、とまだその頃は、ふてくされたような口調で堤はこぼしていた。
無理もない、松岡と組んでいる堤の負担やストレスは、相当なものだっただろう。
けれどやがて、週の半分ほどしか出社せず、しても覇気がなく、ミスをしても報告も修正もしない、そんな状態にまでなった松岡に。
いよいよ堤が当たりを強めたのは、暑さもいくぶん和らいだ最近のことだった。
はじめのうちは堤の不満も理解でき、いつもの毒舌と受けとめていた新庄も。
次第に冷徹な蔑みを隠さなくなった彼に、ついていけないとすら感じるようになっていた。