オフィス・ラブ #another code
元からあまり器用なほうではなかった松岡がこうなったのには、そもそも堤に一因があり。

けれどそれ自体は、堤が悪いわけではないと新庄は理解していた。


要するに、組んだ後輩が優秀すぎて、先輩である松岡がつぶれてしまったのだ。

真面目で不器用で、あまり処理能力が高くなく、けれど人並みにプライドはあり、きっとそれがわざわいした。

堤が「できます」と言うたび彼の仕事は増え、松岡の割合は減っていった。

それは先輩である彼にとって、耐えられないことだったんだろう。


堤も最初は、単に効率よく業務を進めるため、キャパのある自分が多く分担したほうがいいという純粋な思いだったに違いない。

けれどそれが松岡に及ぼす影響に気づき、松岡が自滅し、言葉は悪いが堤の足を引っぱるようになった時。

堤は、意識的に彼から仕事を取りあげた。



「だって、頼んでもできないんだもん」



ふたりきりの時、なんでもないことのように堤はそう言った。

気持ちはわかる。

わかるが、それは違うだろう、と新庄は苦々しく思った。

先輩は敬うべきだとか、そんなたわごとは言わない。



(だけど俺たちは、組織なんだ)



チームなんだ。

誰にでも得手不得手があって、個性があって、やりかたにもペースにも差がある。

それを最大限うまくはめこみあって利益につなげるのが、仕事なんじゃないのか?

そう言ったところで、堤が聞く耳を持たないであろうことは、わかっていた。


堤は自分に厳しいぶん、他人にも厳しい。

失敗は許すが、怠慢は許さない。

そして、人の能力が期待に足りないと、それを努力不足と決めつけるくせがある。


彼本人が努力家であるがゆえだろう。

皮肉な話だ、と新庄は思った。

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