オフィス・ラブ #another code
頑張ってもできない人間は、いる。

そう割りきる自分のほうが、もしかしたら冷たいのかもしれない。


自宅のベッドに寝そべって、当時のやりきれない気分を思い出した。

煙草を挟んだ自分の指が、電灯の逆光になるのをぼんやりと眺める。


たまにしか吸わないと言っておきながら、誘えば絶対に喫煙所に来るし、持っていなければ平気で人の煙草を失敬する奴だった。

そんな愛嬌のある甘ったれぶりと、あの冷酷さが、どうしてひとりの人間の中に共存できるんだろうと不思議になる。


上長たちは、彼のそういう攻撃的な一面に気づいてはいたんだろうが。

とにかく堤のアイデア力と企画推進力は群を抜いて高かったので、特に諫めはしなかった。

なにより、中途入社だった彼は、まだ2年目のヒヨッコという枠から外れてしまっていたのだ。


松岡もそう思えたら楽だったろうに。

悲しいことに、松岡にとっての堤は。

自分がブラザーとして教育した、弟分の新庄と同い年の、あくまで2年目の若造だったのだ。





「亡くなった?」

『そう、少し前から入院してたらしいんだけど、急に』



妹からの訃報に、その大叔父の名を記憶から探る。

やはり覚えがなく、けれどそもそも母方の親戚は多いので、誰もがそんな感じだった。

だからといって、行かないわけにいかない。



「浜松だっけ」

『そう、お父さんたちは明日から行くって』



不謹慎と思いつつ、ため息が出た。

通夜である土曜は、大塚と出かける約束をしていた日だ。

その翌日には、マーケのメンツで飲みを兼ねた打ち合わせがあるから、うしろにずらすこともできない。

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