オフィス・ラブ #another code

大塚かと思った。


昼食をとりに出た、平日の昼間のカフェで。

すぐうしろから聞こえた「そうなんです」という女性の声が、あまりにそっくりで。

思わず振り返って、電話中だったその女性が、当然のことながらまったく見も知らぬ顔だったことに苦笑した。


大塚は、会社だ。

今朝、出社前を狙って、約束を守れないと電話をしただろう。

恨み言のひとつも言わず聞き分けてくれた彼女に、申し訳なさが募る。


結局この間、堤との確執について話すことができなかったなと思い返した。

大塚の同期の、あの気の強い雑誌局員の騒動があったからだ。


迷いなく、自分よりも緊急事態に陥った友人を選んだ大塚を好ましく思った。

その真面目さと情の厚さが、彼女の魅力だ。


持ってきていた経済誌をめくると、ネットワークサービス業界の事例に、堤の前職の企業の名があるのを見つけた。

つい食後のコーヒーを飲む手もとまり、カップを持った指に煙草を挟んだまま、目も文字の上を素通りする。





秋の訪れを待たずに、松岡は退職した。

ブラザーであることを置いても、新庄は悲しかった。


不器用だけど、長所はあった。

細やかで堅実なスケジューリングや、これでもかというくらい丁寧な仕事ぶり。

言葉を選んで誠実に話すその姿勢は、営業部からも買われていた。


やめて、どうするんだ。

職がなくて、どうやって生きてくんだ。

次の職につくまでのブランクは、生涯キャリアの履歴から消えない。

それが、今後どれほどのハンディとなることか。

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