オフィス・ラブ #another code
無様でも、休職してでも、会社にしがみついていればよかったんだ。

堤の言う2-6-2の法則を逆説的にとらえれば。

働けない2割を救済するために、他の8割がいるんだ。

そう割りきればよかったんだ。


だけど、それができないくらいには、松岡は良識と自尊心のある男で。

引きとめるのも、彼の決断を軽んじるような気がして。


新庄は、彼に言う言葉を持たなかった。





「はい、失礼します」



背後の女性の声に、はっと我に返った。

本当に似ている。


落ち着いているけれど女性らしく、年相応の可愛らしさも残す声。

丁寧なのに慇懃じゃなくて、ほがらかだ。


次会うのはいつになるだろう、とスケジュールを頭に浮かべながら息をついた。





「昔は、よく似てたのにねえ、ふたり」



いつの話だ。

いくら説明されても結局、自分との関係がよくわからない親戚の言葉に、心の中で突っこんだ。

通夜の後、無数の親戚たちが広い和式の客間で酒を酌み交わしていた。

確かに昔は瓜ふたつとよく言われた、隣に座る妹も、新庄と同じ思いなのは伝わってきたが、こっちは一応愛想よく返している。


久しぶりに両親とも顔を合わせ、会うなり父親に頭をはたかれた。

帰ってこいと何度言わせる、と怒られて、素直にごめんと謝りはしたものの、いつ帰るという約束からはうまく逃げてきた。

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