オフィス・ラブ #another code

まだ真っ暗な早朝、野ざらしの駐車場に置いておいた車には霜が降りていた。

あきれることに、一族はまだ飲み続けている。

新庄も結局、酒を断り続けながらもそれにつきあい、妹にだけは声をかけて、ようやく辞去してきた。

着替えるタイミングもなかった。


乗りこんで、暖気のためにアイドリングさせる。

湯を持ってくればよかったと思いながら、取りに行くとまた誰かにつかまりそうなので、できなかった。

車内でも息が白く、手がかじかむ。


動かない指で煙草をくわえ、一睡もしていない頭を覚醒させた。

この休暇中さんざん寝たので、休憩なしで東京まで戻るくらいの体力はある。



少し車内が暖まってきたので、背広を脱いでネクタイを緩めた。

脱いだ上着をリヤシートに放ろうとして、助手席が空いていることを思い出し、そちらに切り替えた。

思わず笑う。


以前、なんの気なしに習慣で上着を助手席に放って、会社帰りの大塚を家まで送った時。

着いてから驚いたことには、彼女は律儀にそれをたたんで、ずっとひざの上に乗せていたのだった。



『そんなの、うしろに置けよ』

『持ってろって意味かと』



そんなわけないだろう、と彼女の真面目さにあきれ、以来リヤシートに放るようになり、いつの間にかそれがくせになっていた。


大塚は、昨日一日、どう過ごしただろう。

行くことのできなかった山を、恋しがっただろうか。


あらかた霜がとれたところで車を出し、着時刻を知るためにナビをセットした。

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