オフィス・ラブ #another code
あの時も、こんな冷えこみの厳しい季節だった。

インターチェンジまでの道を走らせながら、あの男の、柔らかく、いつも愉快げな独特の声が思いだされた。



――やるじゃん。



やめよう、と自制した。

せっかくの、夜明け前の爽快なクルーズの最中に、あんな奴のことは思い出したくない。

行く手の空が徐々に白んできているのが見え、ナビは昼前の着を知らせている。

道さえクリアなら1、2時間はまけるだろうと予想しながら、高速に乗った。





大塚のマンションは、首都高を降りて数分のところにある。

1Fにあるコンビニの駐車場に車をすべりこませ、身体をほぐそうとエンジンをつけたまま外に出た。

最初に乗った車が古いターボ車だったせいで、高速で走った後にはこうしてアイドリングさせるのが、もう習慣になっている。

最近の車には、もう必要ないとは、わかっているんだが。


久しぶりに無傷なのが嬉しい、愛する車のドアに寄りかかって煙草をくわえた。


時計を見れば、10時。

思った以上に順調な道のりだった。


一服してから携帯を取り出す。

非常識な時刻ではないと思うが、休日の彼女がどういう生活をしているのかわからず、少しコールして出なければ帰ろうと思った。


番号を呼び出して、通話ボタンを押す。

コール音を聞きながら、打ち合わせの前に少し寝ないとなと考えた。


ふとマンションの入口から人が出てきた気配を感じて、目を上げる。

そこにいたのは、大塚だった。

< 58 / 148 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop