オフィス・ラブ #another code
「難しい顔してるぞ」
加倉井の声にはっと気づくと、自分はひざの上に顎を乗せ、完全に考えこむ体勢になっていたようだった。
すみません、と気持ちをコントロールできない自分を不快に思いながら謝罪する。
「仕事か、女か」
「間ですかね」
にやにやと尋ねる加倉井に、つい正直に答えて、馬鹿かと自分をなじっていると、彼がぽかんとこちらを見た。
「間って、どこだよ?」
…どこだっていいだろう、間は間だ、とふてくされたような気分で考える。
まったく頭の切り換えができていないことを自覚して、ため息が出た。
こんな自分にも腹が立つし、あんな場面に出くわした間の悪さにも腹が立つ。
大塚にも、何をやったか知らないが、やるならもっとうまくやれと言ってやりたかったし。
そんなふうに彼女に腹を立てる度量の小さい自分にも、また頭に来ていた。
前髪に指をうずめ、そのひじを立てたひざに置く。
なぜこんなに腹立たしいんだろう。
そんなことを思う権利が、いったい自分のどこにあるというのか。
散々はっきりしない立場を楽しんでおきながら、それでも実質は手に入れているようなものだとうぬぼれていたのか?
こういう半端な関係である以上、何をしようと彼女の自由と、そう考えながら、断じてそれを許せないと思う自分がいる。
最悪だな。
彼女を、なんだと思ってるんだ。
何様のつもりだ。
なんでこんなに、醜い自分を見ないといけないんだ。
なんでこんなに、みじめな思いをしなきゃならないんだ。
気がつくと、またじっと物思いにふけっていたらしく、加倉井が楽しそうに笑いながら頭をかき回してきた。