オフィス・ラブ #another code
考えると自分にうんざりするばかりだったので、なるべく忘れたふりをして過ごすことにした。
が、一日二日はうまくいったものの、次第に罪悪感が芽生えてきた。
自分が無視したあの電話で、大塚は何を言おうとしたんだろう。
それ以降、彼女から連絡はない。
もしかしたら自分は、取り返しのつかないことをしたんじゃないだろうか。
けれど、いまだに日曜のあの場面を思い出すと、ムカムカと腹立たしい思いがこみあげてくるので。
しかも、思い出すたびにその腹立ちは度合いを増しているような気もするので。
こちらから動く気も、ましてや連絡をとる気もさらさらなかった。
「や」
出社中、駅から会社までの道で、ドンと脚に衝撃が来た。
うしろから追いつく形で新庄に並んだのは、振り向かなくてもわかる、堤だ。
こんな気分の時に、一番会いたくない奴に会ってしまった。
顔を見たら手が出そうなので、無視をする。
それで新庄の脚をつついたらしい鞄を、遠いほうの手に持ちかえると、堤が楽しげに笑った。
「背中からして、超、不機嫌」
歩調を速めるのも癪で、あえて並んだまま歩き、無視を続ける。
「大塚さん?」
その名前を、出すな。
思わずにらみつけると、予想はしていたけれど、やはり頭に来ることに、声を上げて笑われた。
「ざまあないね」
ぽんぽんと励ますように新庄の背中を叩き、お先、と軽やかな足取りで追い越していく。