オフィス・ラブ #another code
実装された仕様を確認しながら、エンジニアへの戻しを作成する。
煙草をくわえながらの作業は、デスクでするよりもはかどる時がある、と思った。
営業時代は、そもそも社内にいることがほとんどなく、こういう時間はとりづらかった。
自分で時間を好きに管理できる内勤も、いいもんだなと改めて思う。
ガラス張りの喫煙所のドアが鳴った。
珍しい、女性の靴音だと思い、そちらに目をやる。
視界に入ったのが、明らかに知っている姿だったので、思わず顔を上げた。
「大塚…」
意を決したような顔をして立っている彼女に、つい煙草を口から外し、周囲を見回す。
最悪なことに、誰もいない。
舌打ちをしたい気分だった。
なんでこんなところに、こいつがいるんだ。
何をしに来たんだ。
話をしに来たんだろう、決まっている。
彼女には悪いが、聞く気はなかった。
考えないようにしていたせいで、なんの心の準備もできていなかったからだ。
顔すら見たくない。
見れば自分の心がみっともなく揺れることが、わかっていたから。
「説明したら、聞いてくれますか」
「吸わない奴が、こんなとこ来るな」