オフィス・ラブ #another code
コンペのテーマは、「『環境』をテーマにした屋外広告」という、大ざっぱなものだった。

環境、という時代に沿いすぎてもはや軽いとしか感じられない言葉をあえて使ったことで、それを皮肉ってもよし、真っ向から取り組んでもよしという意図だろうと察しがついた。



「びっくり、堤くんは真っ向派だよ」



諜報員役を担ってくれた、グラフィッカーである女子が報告する。

社内では絶対に言葉を交わさないようにし、情報交換は必ず社外の人目につかない場所で行った。


その報告は、新庄にも意外だったが、よく考えるとそうでもない気もした。

ひねくれている堤は、自分のイメージどおりの方向性をとるのが嫌だったんだろう。



「じゃあ、俺たちもそれで勝負する」

「企画内容をメモしておいたから」



読んだら燃やしてね、とスパイ映画のようなことを言って笑う。

新庄も笑い、それに目を通した。

さすがの企画だった。





「時がたつと消える広告、ね」

「風に消え、雨に溶ける広告だ。いかにも堤らしい、自由気ままなアイデアだ」



チームにその内容を展開した時、メンバーからは感嘆の息が漏れた。

閉鎖的な個室のある飲み屋で、誰もが忙しい合間を縫って、作戦会議を開く。


新庄は堤の企画に、どこか誇らしいような、ほっとしたような気分を味わっていた。

全力でつぶすのにふさわしい、素晴らしい企画でよかった。



「で、どう勝つ、これに?」

「破天荒さは両刃の剣だ。うちは向こうの案が『遊びすぎ』と見えるよう、ほどよく現実的な企画をぶつけてやる」

「企画そのものもだけど、プレゼンの内容が肝だな。まあ、新庄なら」

「任せろ。俺が絶対に、狙う方向へ持っていく」


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