オフィス・ラブ #another code
あえて「時の移ろい」というテーマをかぶせたのは、新庄なりの堤への嫌味をこめたオマージュだった。

企画はとんとん拍子に練りあがり、あとは作りこみと新庄のプレゼンにかかっていた。

それには、不安はなかった。

ここ一番の舞台で失敗した経験は、新庄にはない。


やってやる、と思うと同時に。

この創造的な、刺激に富んだ瞬間に、こんな醜い動機で動いている自分が、汚く卑小に思えて。

それだけが、残念でならなかった。





「散々だったよ、お偉方の前で恥かかされて」



堤が煙草を揺らしながら軽く言う。


散々だっただろう。

それを狙ったんだ。


苦々しい気持ちで思い返した。





新庄たちは、優秀賞をとった。

最優秀賞は出ず、堤たちの企画は奨励賞どまりに終わった。


メンバーたちは最優秀をとれなかったことを悔しがりながらも、充実したコンペに満足した様子で手を打ちあわせていた。

新庄は彼らに協力のお礼を言い、コンペ会場である大ホールから、誰もいないオフィスのフロアに戻った。


もう嫌だ。

自分のデスクにぽつんと腰をかけ、何をする気力も出ない。

怒りと恨みに突き動かされてとった優秀賞は、何ひとつ、新庄にもたらしてはくれなかった。

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