オフィス・ラブ #another code
「何か言いたそうだね」
ふいに堤が大塚を促した。
新庄は彼女を正視することすらできなかったので、どんな顔をしているのかは、わからなかった。
何を言いたいんだろう。
どう思っただろう。
堤さんは、という彼女の声が聞こえた。
「何かを失ったみたいに、言いますけど…違いますよね」
思わず彼女を見る。
堤に気を使っているのか、その物言いは遠慮がちだ。
けれど、これだけは言いたいのだとでも言うように、頑なに言葉を継ぐ。
「なりふりかまわず取りに行ったものが、手に入らなかっただけ、でしょう…」
どうして、と新庄はまた目線を落とした。
どうして、そうなんだ。
ここまで聞いても、自分を責める様子も軽蔑する様子もない大塚がありがたい反面、不思議でならなかった。
そこまで自分を信じてくれる、理由はいったいなんだ。
幻滅したようでもなく、むしろ擁護しようとまでしてくれる、根拠はいったいなんだ?
「別に俺は、コンペの負けはたいして気にしてないよ。それより」
堤が軽く目をすがめて、新庄を見すえたのを感じた。
「そういう、汚い手とか全然使いませんみたいな。妙に潔癖なふりしてるのが、気に食わないんだよね」