オフィス・ラブ #another code


寝ている。


二日間にわたる、中規模のイベントの撤収作業が終わったのは、だいぶ夜も更けた頃だった。

車に乗りこみながら、どこか寄りたいところはないかと訊くと、大丈夫ですと返事が来た。

少し走って、そうだ給油をしようと思い、スタンドに寄ってもいいか訊こうとした時には、もう眠っていた。


無理もない、疲れたんだろう。

ひとりで前日から設営に立ち会い、運営から接客までをメイン担当として回した。

小さなトラブルはあったものの、そんなもののないイベントなんて見たことがない。

問題は、それをどう切り抜けるかだ。


彼女は、よくやった。


シートベルトに頬を預けるようにして、ぐっすりと寝入っている姿が微笑ましい。

彼女の家を知っていてよかった。

到着まで、起こさずに済む。



彼女は本当に、一度も目を覚まさなかった。

あまりによく寝ているので、起こす気づかいもなく、予定どおり給油をしたほどだ。


マンションの前で思案する。

疲れているのだから、早く部屋に上がって、ちゃんとベッドで寝るべきだ。

けれど呼びかけても起きないので、これ以上どうしようもない。

揺さぶるのもためらわれて、少し待つことにした。


アイドリングさせても問題なさそうな場所を探すと、裏手が土手になっていたので、そこに停める。

冷えるので、少しの間ならと、エアコンを強めた。


ペダルから足を離して、短くなった煙草を灰皿に捨てる。

少しシートを倒して、頭を預けた。


最近は忙しさのあまり、ゆっくり車を走らせることもできずにいた。

こうした出張はいい機会だ。

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