オフィス・ラブ #another code
半月以上も渡す機会を探していたんだろうかと思うと、いじらしさに笑いがこみあげる。


ロゴを見ると、新庄の腕時計と同じ、イタリアのブランドのもので。

さすが、よく見ているし、いい趣味だなと感心した。


ちょうどコーヒーを飲んでいたところだったので、ひとつつまむと、あからさまにうらやましそうな視線を感じる。

ほしがられると、やるもんかとからかいたくなるのは、当然で。


実行すると、彼女は本気で怒りの声を上げ、さも心外そうな顔でふてくされた。

なぜこんなに、わかりやすくて可愛いんだろう。

しばしの間、その横顔を楽しく眺めてから、冗談だと言ってやる。


本気のしるしに、ひとつを差し出すと、彼女は疑わしそうに少し逡巡して。

じろりと新庄を見あげながら、まだ若干のふくれっつらで、口を寄せてきた。


指先から、彼女がそれをくわえとった瞬間。

あ、と思いが転がり出てきた。



好きだ、と。



思った時には、たぶんもう口にしていて。

次の瞬間には、彼女をつかまえていた。


ちゃんと言うことは言ったし、そこそこ好きにしても許されるだろうと、欲望のおもむくままに口づける。

彼女が肩にしがみついてきた感触に、体温が上がるのを意識した。

思うさま、めちゃくちゃに唇を合わせ、その甘みを存分に味わううち、あれっ、と疑問が生じる。


自分こそ、まだこいつから、肝心の言葉をもらっていないんじゃないか?

記憶を探るが、確かにない。


よくないな、と内心でうなずく。

それは、非常によろしくない。


早々に、言わせてやらないと。

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