オフィス・ラブ #another code
なぜかここのところ乗せる機会の増えた部下との縁を不思議に思う。

会社の誰にも車への傾倒を語ったことはなく、出張先にこうして車で来ることも、誰ひとり知らないはずだ。


二度目に緊急事態で乗せた時、一度目との足回りの違いに彼女は気づいた。

自分では運転しないらしいのに、いったいどれだけ前の男の影響を受けたんだろう。

そこそこ自分を持っているふうでいて、そんなところで他人に染まるのかと、少し意外だった。




急に意識が浮上したせいで、瞬間的に身体が汗ばんだ。

そのことで、寝ていたと気づく。


シートを戻して時計を見ると、どうやらアイドリングをさせたまま30分近く眠っていたらしかった。

隣を見ると、まったく変わらない様子で静かに休んでいる。


さすがにと思いエンジンを切って、早まったことに気づいた。

静まり返った車内に、規則正しい彼女の寝息が響く。

その居心地の悪さに、外で一服することにして、リヤシートの上着を取り、そっと車を降りた。



冷たい秋の風は、寝起きの身体に心地よく、煙草の煙を吹き飛ばす。

懐かしい雰囲気の川に、知らず足が土手の階段へ向かう。


そういえば、妹から再三、実家に帰るようにと要請があったんだった。

口うるさいけれど、よく面倒を見てくれるしっかりした妹を、川遊びの記憶とともに思い出し、車で寝ている部下も同じ読みの名前だったなとふと思い浮かべた。

漢字が違うと、だいぶ名前の印象も変わる。



足元の草を鳴らして、風が吹いた。

ここは本当に、気持ちがいい。



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