オフィス・ラブ #another code
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「来るってわかってたら、借りてた本、持ってきたのに」
「もう読んだの、速いね」
堤が驚いたように目を見開く。
そうなのだ。
いつも人に言われて気がつくことには、新庄は本を読むのが速いらしかった。
特に速読をしているつもりもないのだが、確かに、一冊の本に何日もかけるという体験をしたことはない。
「情緒が欠けてるんだよ、お前。行間を読んだり、文字を脳内で音声化したりして楽しむ奴は、どうしても遅くなるんだよ」
あきれたように言い捨てられ、いくぶんむっとする。
情緒が欠けている、というのは、以前言われた「無神経」と同義だろうか。
そう訊いてみたかったけれど、なんとなく馬鹿にされそうなので、やめた。
「ひと昔前のネットワークの思想だって踏まえて読めば、参考になるだろ」
「なった、面白いな」
システムを手がけていて、そうだと堤の前職に思いあたり、いい参考資料はないかと頼んでみたのだ。
ふいに堤が、あのさあ、とフェンスに背中を預けて、腕を組んだ。
「今さらなんだけど、どうしても気になっててさ」
「…なんだ」
つい警戒した声が出た。
こいつが、こんなふうにもったいつけて話しはじめる時は、要注意だ。
「例の、コンペのあの子。結局、どうやって言いなりにしたわけ?」
煙にむせるかと思った。
どうやらこいつも同じように、昔に思いをはせていたらしい。