きみのために -青い竜の伝説ー
29.きみがいるだけで
城内は沸いていた。
和議へ進まない、にらみ合いの続く前線で神経のとがっていた戦士たちが
『救い』の存在ひとつで勝利したように歓喜していた。
みな身体の底から気力が蘇っているようだった。
「きみがいるだけでこんなに変わるなんて・・」
フランツは窓の外から中庭を見下ろしてつぶやいた。
そこここに立つ兵士の覇気が全然違うのだった。
☆☆☆
「本当に、君にはかなわないよ。国王の後押しを受けてここへ来るなんて。」
館に入ってきたディアナを見たとき、フランツは一瞬目を疑った。
自分が望む幻を見ているのかと思った。
ディアナもまた、フランツを見て目を丸めるほど驚いた。
彼は包帯ひとつ巻いておらず、全く怪我人のようには見えたからだった。
いや、でも服の下に包帯をぐるぐる巻きにしているのかも、と
その場で服を脱がせ確かめようとした時には、周りからどっと笑いが溢れた。
多くの兵たちがいる前だったのを忘れていたのだった。
フランツはくっくっと笑い、真っ赤になったディアナの肩を抱いた。
見上げたフランツの胸元に、ディアナの青い玉の首飾りが揺れていた。
「みな、聞いてくれ。私の傍に彼女がいれば、もう安心だ。
力が溢れるようだ。我らに勝利を!」
ディアナは何だかおかしいな・・と思ったが、フランツがひょいっと
ディアナの身体を抱き上げたので、そんな考えは一気にどこかへ飛んでしまった。
その胸と腕に抱き上げられ、ディアナは上の階へと石の階段を上るフランツの腕に
静かに身体を預けていた。数日会えなかっただけなのに、彼の香りが
とても懐かしいような気がした。
「どうした?おとなしいな?」
優しく、からかうような声。フランツ皇子の声だ・・。
とくん、ディアナの胸が音を立てた。
「怪我、してるんじゃないの?」
フランツの怪我を気にして、誤って触ってしまわないよう暴れないでいた。
「してないよ。」
「・・・え?」
フランツを見つめるディアナ。
「してない。」ふっと笑うフランツ。
「怪我はしていない。あれは敵を油断させるためのデマだったんだ。」
敵の目をかく乱するため、偽の情報を流すことはよくあること、まさかそれで
ディアナが送られてくるとは思っていなかった。
「えーーーーっ・・・!」
館内にこだました声に、ディアナは慌てて自分の口を手でふさいだ。
この館は声が響きやすいようだった。
「どうして?!私、フランツ皇子が・・っ!!」
勢いよく首筋につかまったディアナから激しく非難の言葉が来るかと思った。
が、それは来なかった。代わりに、ディアナはそっとフランツの首筋に抱きついた。
やさしい花のようなの香りがフランツをふんわりと包んだ。
数日会わなかっただけなのに、この胸を愛しくさせるこのきみの香り・・・。
きみがいるだけで、私はこんなにも違った男になれてしまうのか。
フランツはそっとディアナの髪をなでた。
「・・・よかった。怪我してなくて。無事でほんとに・・よかった・・・。」
フランツはディアナの髪に顔を寄せた。
きみがいるだけで、こんなにも愛しさがこみあげてくるなんて・・・。
こんなにも心が穏やかになるなんて。
こんなにも心が温かくなるなんて。
とくん、とくん、
彼女のか、自分のか、わからない鼓動を聞きながら、
フランツはそっとディアナを上の階の自室としている部屋へ運んだ。
部屋に着いた時にはディアナは穏やかな表情で眠りに落ちていた。
「私に抱かれたまま眠れるとは・・ふっ、ほんとうにきみって人は。」
男だと思われていないのだろうか?
押さえているのは自分だけなんだろうか?
フランツは苦笑した。
穏やかに眠る彼女をベッドに横たえる。
マントを外し、そばのテーブルに乗せた。
≪父からこのマントを託されるとは、きみは周りが希望を託したくなる
よほどの力があるのだろうか?≫
ディアナの小さな寝息、安心しきった様子に口元が緩んでしまう。
≪私のガードを緩める力はあるようだがな。≫
フランツはディアナのピンク色の頬に口づけをした。
とてもやわらかな感触。
フランツはしばらくそのままディアナのそばで彼女を見守っていた。
窓から中庭を見下ろす。
「君がいるだけで、こんなにも変わるなんて・・。」
またフランツはつぶやいていた。
周囲が求める『救い』という役目。。
それでも、ディアナから自分へと課したこの役目を、眠る彼女に返そうとは決して思わなかった。
二度と彼女を傷つけることはしたくなかった。
フランツは胸元につけた青い玉をぎゅっと握った。
その存在があるだけで、強くも弱くもなれることをフランツは初めて知った。
できることであれば、自分の胸に閉じ込めて危険になどさらしたくはない。
この愛しい存在を守りたいと思っていた。
和議へ進まない、にらみ合いの続く前線で神経のとがっていた戦士たちが
『救い』の存在ひとつで勝利したように歓喜していた。
みな身体の底から気力が蘇っているようだった。
「きみがいるだけでこんなに変わるなんて・・」
フランツは窓の外から中庭を見下ろしてつぶやいた。
そこここに立つ兵士の覇気が全然違うのだった。
☆☆☆
「本当に、君にはかなわないよ。国王の後押しを受けてここへ来るなんて。」
館に入ってきたディアナを見たとき、フランツは一瞬目を疑った。
自分が望む幻を見ているのかと思った。
ディアナもまた、フランツを見て目を丸めるほど驚いた。
彼は包帯ひとつ巻いておらず、全く怪我人のようには見えたからだった。
いや、でも服の下に包帯をぐるぐる巻きにしているのかも、と
その場で服を脱がせ確かめようとした時には、周りからどっと笑いが溢れた。
多くの兵たちがいる前だったのを忘れていたのだった。
フランツはくっくっと笑い、真っ赤になったディアナの肩を抱いた。
見上げたフランツの胸元に、ディアナの青い玉の首飾りが揺れていた。
「みな、聞いてくれ。私の傍に彼女がいれば、もう安心だ。
力が溢れるようだ。我らに勝利を!」
ディアナは何だかおかしいな・・と思ったが、フランツがひょいっと
ディアナの身体を抱き上げたので、そんな考えは一気にどこかへ飛んでしまった。
その胸と腕に抱き上げられ、ディアナは上の階へと石の階段を上るフランツの腕に
静かに身体を預けていた。数日会えなかっただけなのに、彼の香りが
とても懐かしいような気がした。
「どうした?おとなしいな?」
優しく、からかうような声。フランツ皇子の声だ・・。
とくん、ディアナの胸が音を立てた。
「怪我、してるんじゃないの?」
フランツの怪我を気にして、誤って触ってしまわないよう暴れないでいた。
「してないよ。」
「・・・え?」
フランツを見つめるディアナ。
「してない。」ふっと笑うフランツ。
「怪我はしていない。あれは敵を油断させるためのデマだったんだ。」
敵の目をかく乱するため、偽の情報を流すことはよくあること、まさかそれで
ディアナが送られてくるとは思っていなかった。
「えーーーーっ・・・!」
館内にこだました声に、ディアナは慌てて自分の口を手でふさいだ。
この館は声が響きやすいようだった。
「どうして?!私、フランツ皇子が・・っ!!」
勢いよく首筋につかまったディアナから激しく非難の言葉が来るかと思った。
が、それは来なかった。代わりに、ディアナはそっとフランツの首筋に抱きついた。
やさしい花のようなの香りがフランツをふんわりと包んだ。
数日会わなかっただけなのに、この胸を愛しくさせるこのきみの香り・・・。
きみがいるだけで、私はこんなにも違った男になれてしまうのか。
フランツはそっとディアナの髪をなでた。
「・・・よかった。怪我してなくて。無事でほんとに・・よかった・・・。」
フランツはディアナの髪に顔を寄せた。
きみがいるだけで、こんなにも愛しさがこみあげてくるなんて・・・。
こんなにも心が穏やかになるなんて。
こんなにも心が温かくなるなんて。
とくん、とくん、
彼女のか、自分のか、わからない鼓動を聞きながら、
フランツはそっとディアナを上の階の自室としている部屋へ運んだ。
部屋に着いた時にはディアナは穏やかな表情で眠りに落ちていた。
「私に抱かれたまま眠れるとは・・ふっ、ほんとうにきみって人は。」
男だと思われていないのだろうか?
押さえているのは自分だけなんだろうか?
フランツは苦笑した。
穏やかに眠る彼女をベッドに横たえる。
マントを外し、そばのテーブルに乗せた。
≪父からこのマントを託されるとは、きみは周りが希望を託したくなる
よほどの力があるのだろうか?≫
ディアナの小さな寝息、安心しきった様子に口元が緩んでしまう。
≪私のガードを緩める力はあるようだがな。≫
フランツはディアナのピンク色の頬に口づけをした。
とてもやわらかな感触。
フランツはしばらくそのままディアナのそばで彼女を見守っていた。
窓から中庭を見下ろす。
「君がいるだけで、こんなにも変わるなんて・・。」
またフランツはつぶやいていた。
周囲が求める『救い』という役目。。
それでも、ディアナから自分へと課したこの役目を、眠る彼女に返そうとは決して思わなかった。
二度と彼女を傷つけることはしたくなかった。
フランツは胸元につけた青い玉をぎゅっと握った。
その存在があるだけで、強くも弱くもなれることをフランツは初めて知った。
できることであれば、自分の胸に閉じ込めて危険になどさらしたくはない。
この愛しい存在を守りたいと思っていた。